従業員20人以下の企業の人事制度コンサルティング事例<2024.10.10>
長野経済研究所では経営相談メニューの1つとして、人事制度の導入および制度再構築のコンサルティングを実施しています。
人事制度は従業員数が何人くらいになったら作れば良いかお悩みの企業もあるかもしれません。今回は、当研究所でコンサルティングを実施した企業のうち、比較的小規模な企業の事例をご紹介します。
1.人事制度は等級・評価・賃金の3つが連動
人事制度は経営者から従業員への働き方に対するメッセージであり、経営理念を実現するための1つの手段です。
経営者の思い(=「基本理念」)は、従業員に対して「期待する人材像」という形で示されます。この「期待する人材像」が人事制度の基準となります。この基準は、従業員のレベルごとに期待水準が少しずつ異なり、一般的には「等級制度」を用いて整理されます。
また、従業員に「期待する人材像」に近づいてもらうため活用するのが「評価制度」です。
さらに、どの程度期待に応えてくれたら、どの程度の処遇をするのかルールを決めたものが「賃金制度」ということになります。
「等級制度」「評価制度」「賃金制度」の3つが連動して1つの人事制度になっています。
2.人材確保のために欠かせない人事制度の導入
従業員数が少なく、経営者と従業員のコミュニケーションが密に取れて、経営者の思いが直に従業員に届き、従業員も賃金に満足している状態であれば人事制度は不要かもしれません。しかし、従業員が増え、経営者の思いを効率良く伝え、従業員の働きぶりに応じた賃金を支払うためには人事制度が必要になってきます。
また、近年では人手不足が加速しており、求める人材を確保するためにも人事制度の導入は欠かせないものとなってきています。
なぜなら、人事制度のない企業では賃金の決め方や昇給・昇格などに「公平・公正性」「納得性」「透明性」が確保できず、そのような企業は求職者から選ばれないからです。
逆に、小規模な企業であっても、人事制度を導入することは、他社との差別化にもなります。
以下では、小規模企業のコンサルティングの事例を紹介します。コンサルティング期間はいずれも半年程度です。社員数(パート・アルバイト含まず)、社歴はコンサル契約時のものです。
業容拡大に向け人事制度導入(A社)
- 業種:飲食業
- 社員数:正社員8名(男性7名、女性1名)
- 社歴:創業6年目
A社の状況
(1)3店舗目の開店とセントラルキッチンの建設、(2)食材仕入先の会社組織への統合、という2つの計画を予定しており、拠点、従業員が増える予定でした。
ニーズ
拠点、従業員数が増えることで経営者の目が行き届かなくなることが考えられ、(2)の統合前の人事制度構築を希望していました。
また、制度構築を機会に経営者の思い、価値観を従業員と共有したいと考えていました。
コンサルティング内容
評価制度は、経営者が経営理念、ミッション、ビジョンを考えるところから始め、経営者の思いを従業員に浸透させる手段としてパート・アルバイトも評価対象としました。評価項目に「価値観」を加えたことが特徴です。
賃金制度は、基本給は一律とし、役職手当で賃金に差をつけるシンプルで分かりやすい制度を構築しました。また、従業員の定着を目指し、勤続報奨金も新設しました。
組織体制変更を機に新人事制度導入(B社)
- 業種:木材・木製品加工・卸売業
- 社員数:正社員12名(男性10名、女性2名)
- 社歴:創業37年目
B社の状況
長年、別組織からの出向者が管理職を務めており、賃金制度もその組織のものを準用していました。その組織との出向協定解除が予定されており、自社にて新たに人事制度を構築する必要がありました。
ニーズ
大きく以下2つのニーズがありました。
・自社内で管理職人材を育成していきたい
・年功序列型賃金制度から脱却したい
コンサルティング内容
等級制度は、シンプルなものを目指し、3段階で管理職までのステップを示し、自社内で管理職を目指せる仕組みとしました。
評価制度は、成果・プロセスと取り組み姿勢の2つの観点から4段階で評価する簡易なものを構築しました。
賃金制度は、年功から脱却し、仕事ぶりによる評価で昇給額が変わるものとしました。
時代に合わせて人事制度を見直し(C社)
- 業種:広告業
- 社員数:正社員9名(男性5名、女性4名)
- 社歴:創業49年目
C社の状況
先代社長の頃に導入した人事制度があり、20年以上運用を続けていましたが、非常に精緻なもので、運用負担がありました。また、内容的にも時代に合わない部分が出てきていました。
ニーズ
時代に合った評価制度への見直しを図り、評価項目の重複等を解消して、運用負担も減らしたいと考えていました。
コンサルティング内容
等級制度は、既存の体系を維持しながらも社員の成長ステップを改めて棚卸し、社員に求める基準を整理し直しました。
評価制度は、その基準に紐づける形で評価項目を見直すとともに、項目数を減らしてシンプルにし、評価負担を減らすようにしました。
賃金制度の見直しは、当初予定にはありませんでしたが、コンサルを追加し、昇給額にメリハリをつける仕組みとしました。
3.負担の少ない人事制度構築をサポートします
3社の事例のとおり、制度を構築したり、見直したりする理由は各社それぞれですが、共通するのは運用のしやすさを重視した点です。
小規模企業が人事制度を導入、見直しする場合は、運用負担の少ないシンプルな制度とすることがポイントです。
当研究所では企業の規模や実情に合わせて人事制度の導入や再構築をサポートしています。お気軽にご相談ください。
本稿は、経済月報2024年10月号のコンサルティングの現場からの記事を加除修正したものです。
(主任コンサルタント 田中 美恵)
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