人を大切にする経営で元気をつくる(12)-マツザワ<2024・08・20>
12都府県を事業エリアに成長を続ける
(株)マツザワ(下伊那郡高森町)は、「おみやげ」の企画・製造・販売を中心に事業を展開している企業です。同社が製造する「白い針葉樹」「りんご乙女」「市田柿ミルフィーユ」などは、誰でも一度は口にしたことがあるのではないでしょうか。
営業拠点は、長野県をはじめ、群馬県、山梨県、岐阜県などといった隣県のほか、東京都、大阪府まで12都府県に及びます。販売を担うショップは、岩手県から沖縄県まで約30店舗を有し、最も大きいショップは長野駅ビル内にある「信州くらうど」で、ここは県内酒蔵のほとんどのお酒や県産品を広く扱っています。
私たちの仕事は「地域づくり」
広く事業展開を行うもう1つの理由が、「おみやげ」を事業とすることに対する経営者の想いにあります。それは「地域づくり」です。
同社は、「おみやげ」の機能の1つを「地域を活性化させていくこと」と考えています。
つまり、事業を展開する12都府県それぞれの地域の想いをカタチにして、各地域を元気に、そして幸せにしていくことこそ自社の使命であると考えているのです。
地域にあるモノを生かす
「地域づくり」で重要なことは、地域にあるモノを生かすことで、ないものねだりではありません。
同社の製品は、まさにこうした視点から開発されてきました。この発想の原点は同社のルーツにあります。売り上げが十分に立たない創業時に、起死回生の商材として創業者が掘り起こしたのが、山ごぼうの切れ端でした。
これは山ごぼうの漬物を作る際に捨てられていたもので、「この切れ端を活用した商品を提供すれば、観光地で必ず売れる」とひらめき、大ヒット商品「山ごぼうの味噌漬け」に生まれ変わらせたのです。
経営理念は「モノづくり・人づくり・地域づくり」
「地域づくり」への想いを核に、同社の経営理念は「モノづくり、人づくり、地域づくり」として掲げられています。
同社では、この経営理念の実現に向け地道な事業活動を推し進めてきたからこそ、広域にわたる事業展開や数多くの国際的な高評価を得る商品を生み出すことができたのだと思います。
そして、「モノづくり、人づくり、地域づくり」は、現在の行動指針を示すものであると同時に、将来に向けた事業の発展の可能性も確かなものとしています。
「モノづくり」-全員野球で商品づくりを
国際的なコンクールで最高位を受賞しているロングヒットを続ける商品群をそろえる同社ですが、今までに手掛けた商品アイテムはなんと1万2,500点ほどに上ります。
このような実績から想像するのは、相当数の専門の開発担当者の存在です。ところが、同社の開発担当者は専門ではなく、基本的に事務から製造、営業に至る全社員となっています。「商品の企画開発は社員全員の責務」と定め、社員に常に考えることを促しています。
言うなれば全員野球の商品づくりなのです。それは、誰にも企画開発のチャンスが与えられているということであり、そこに大きな魅力を感じて同社に応募してくる学生も多くなっています。
「人づくり」-常に考え、感謝する習慣
商品化に向けて常に考える習慣は、それ自体が重要な人材教育になっています。
さらに、同社では、日々の朝礼を活用した人材育成に力を入れています。毎日、定められたテーマについて仲間の意見を傾聴し、共に考えます。
次に、その日の業務の優先順位を確認し、スケジュール化します。ともすればルーチン化しがちな仕事の目的などを考え、業務を計画化することで、仕事の効率化が図れ、創造性が育まれます。
そして、朝礼の最後には、上司や仲間に対しての感謝を「ありがとうカード」というメモに書き記して渡します。照れくさくてなかなか口にできない「ありがとう」もカードを使うことで伝えることができます。それにより職場の仲間同士の考えていることが理解し合え、感謝し合うことで、良いコミュニケーションが醸成され、心理的安全性が高まっています。
「地域づくり」-地域の所得を増やす
「地域づくり」の最終目標は、その地域の所得を増やすことです。同社は事業を通じて、地域の困りごとを解決することで、その地域の所得を増やすことに貢献してきました。
国際的なコンクールで最高位を数多く受賞している「りんご乙女」は、摘果りんごを活用することで、飯田地域のりんご農家の所得改善に寄与しています。
摘果りんごを食用に使うためには、農薬の散布時期をずらすなど栽培体系を変えなくてはならなかったのですが、農家やJAみなみ信州の協力で変革に成功しました。現在は約50軒のりんご農家から買い取る体制が出来上がっています。
誰でも活躍できる場づくり
同社では、今後、農業に参入することを企画しています。農業を行うことで、退職後の社員の再就職の場や地域の障害を持つ人の働く場も用意していこうと構想を膨らませています。
人は働くことで世の中から「ありがとう」と感謝され、幸せになれるのです。「ありがとう」が飛び交うマツザワから、農業を通じ地域全体に「ありがとう」が広がっていくことを楽しみにしたいと思います。
(資料)『社員を大切にする経営で元気をつくる』長野経済研究所「経済月報2024年8月号」より抜粋
関連リンク
産業調査
電話番号:026-224-0501
FAX番号:026-224-6233